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鹿島槍北壁

2001年3月25日
久野弘龍・加藤美樹

 昨年から通いつづけた鹿島槍北壁を漸く完登できたので報告します。
 昨年は数回に及び北壁に向かいましたが、いずれも北壁に取り付くことすら出来ずにそのシーズンを終えてしまいました。
 昨シーズンの敗退から、今年はアプローチは雪の締まる夜間に済ませ、北壁をワンデイで登るという計画を立てました。荷を軽く
することができるし、雪の腐った天狗尾根を引き返さなくてもいいというメリットがあるからだ。


鹿島槍北壁,広河原3ルンゼ敗退記                                        3月16〜18日

 今回の北壁はアプローチを工夫した。通常は天狗尾根からアプローチするのだが,遠見尾根から直接カクネ里に降り,それを北壁
までつめるというものであった。
 これのメリットは,北壁の状態をあらかじめ確認できること。そして天狗尾根を登ることの労力を省けるかもしれないこと。これらの
ことを狙った。
 結果は,大遠見山から見た北壁はあまりにも白かった。おそらく前日についた雪が落ちていない。さらにカクネ里への下降が結構
やばい雪の状態だった。降りて降りられないことはないが,カクネ里が苦労しそうで、おそらくかなりのラッセルが予想された。
 昼までに登りきればいいのであればべつに行けたと思うが,今回は昼から天気が崩れることが予想されたことと,夜中の0時が最
も気温が低く,6時ごろにはかなり気温が上がる予報だった。つまり,日の出前に既に気温がかなり上がった状態で,さらに日があた
って雪が緩めばかなり危険だと判断していた。そのために立てた戦略は以下の通りであった。

 最終ケーブルで遠見尾根に上がり,カクネ里に下降。そしてカクネ里をつめて北壁基部に最も気温の低くなる0時に到着し,3時ま
でにルートを抜けて昼には大谷原へ降りているというものであった。
 しかし,新雪と,おそらくここ数日の気温が低いために締まっていなかった雪面により,時間がかかりそうなため敗退を決めた。登攀
日がもう少し天気がもちそうであったら行けたかもしれない。おそらく北壁自体は,ルートだけ見れば悪い状態ではなかったと思う。
 そんなことで16時に尾根にあがったのに,21時には車に戻っていた。

 その後,八ヶ岳,広河原3ルンゼに転戦。しかし,ここも思ったほど雪が締まっておらず雪崩の危険を感じて敗退。
 次の日,焼岳に少し登ってスキーをして帰ってきました。


鹿島槍北壁 正面ルンゼ                                                 3月25日

 念願の鹿島槍北壁を登りました。ルートは最もポピュラーな正面ルンゼ。これを登るのに昨年から何回通ったことだろうか。北壁
を登るのに最も重要なことはそのコンディションであって、技術的なことではない。少なくとも正面ルンゼにおいてはそうだ。壁のコ
ンディションと体のコンディション、どちらも重要だ。
 壁のコンディションは良いことを予想していた。前日まで晴天が続き、当日も朝まで晴れて、その後曇ってくる。放射冷却で冷え
ることが予想されるし、曇ってくれば陽がさして雪が緩む危険が小さくなる。北壁においては雪崩れるのは当たり前だと思ってい
なくてはならない。気温が高かったり、陽がさす時間まで壁の中にいては雪が緩み、雪崩に合う危険が高い。北壁を登る者は雪
崩の合間を縫って登るつもりでないといけない。
 体のコンディションはフィジカルな面は当たり前だが、メンタルな面も重要だ。ルンゼルートを登るのに一番重要なのはスピード
だ。そのために何ができるか。体力アップは勿論だが、手っ取り早いのは支点をとらないことだ。単独で登るか、複数で登るなら
同時登攀をするかだ。支点をとらずに何があっても登りきる。それを実行できるまでモチベーションを高めないといけない。
 今回の作戦はこうだ。夜のうちに天狗尾根を天狗の鼻の先まで登り、すかさず北壁へのトラバースを開始する。コンテで正面ル
ンゼを登り、陽が射す頃には頂上へ抜けるというものだ。どうしても一日で登って降りてきたい。そのための作戦である。
 
 24日、20時15分、大谷原を出発する。まだ冷え込みはない。第一のポイントである渡渉地点までは難なく進む。昨年に比べ、河
の流れが変わっていて楽にここまで来れるようになっている。
 渡渉も河の流れが変わっていて飛び石伝いには出来ない。
 渡渉地点でしばし迷う。もしここで濡らせば敗退だ。靴を脱ぐか?脱いでも、膝下までズボンが漬かりそうだ。
 ここは一気にアイゼンで駆け抜けるしかない。幅10メートルほど、転倒に備えヤッケにオーバー手袋、向こう岸の雪壁に飛び付く
ためのバイル等準備し、そして走る!
 まずは第1の核心ポイント通過、二人共濡れず事なきをえる。
 アイゼンを履いての渡渉は有効だ。こけで滑ることが無いし、靴が高くなるからその分濡れにくい。(アイゼンを引っ掛けて転ばな
ければね!)

 荒沢出合は昨年に同じ。充分に埋まっていた。新しいトレースがある。単独もしくは二人だろう。これを踏んでもまたその上から
潜る。
 雪がゆるい。気温が高すぎるのが気がかりだ。また敗退か?そんな思いが頭をよぎる。
尾根上に上がってもこのくるぶしから時に膝までのラッセルは続いた。
 今回、出発を遅らせ、しっかり睡眠をとった。(年度末の工事に事故と渋滞の連続、ロングドライブとなったが)
 更に大谷原でもテントを張り、横になって数時間休んだ。

 おかげで加藤はすこぶる快調。花粉症、仕事疲れの久野は辛い。(体調さえよければ誰もついてこれんって!)
 6時間半でトラバース地点。3時15分にトラバースを開始する。 

 トラバースは今回の最大のポイントとなった。壁が北東向きだからなのか、天狗尾根があるからなのか、雪が吹きだまっている
ようだ。すねから膝のラッセルでトラバースを始めが、場所によっては氷化していたり、あきらかな弱層があったりしてそのトラバー
スだけでも結構辛い。傾斜は45〜60度で、しかも200メートルは続く。更にこのトラバースは北壁の基部で行うものであり、つま
り、上部からの雪崩が充分に予想される場所なので、かなりあせる。
 ここのトラバースは初めてなので、結構うろうろしたために時間がかかってしまい、氷のリボンの下に来たときにはすっかり明るく
なってしまった。
 主稜を末端から巻くと北壁下部の全貌が見える。上部は見えないが、この壁は標高差にして700m以上の壁である。

 無風快晴、足下を見ればカクネ里の大雪渓が氷河のごとく音も無く静かに広く、遥か遠くへ続いている。
 自分の周りは右も左も、さらに上も下も、ただ前方の大きな壁以外何も威圧してくるものは無い。後立山特有の明るい静けさの
中で今一度自分に気合を入れる。
 これから向かうのは憧れつづけた北壁だ!

 正面ルンゼに向かって登り始めたときちょうど6時になる。かなり遅れ気味なので急いで取り付きへ向かう。
 北壁基部の広い雪壁から、右にカーブしたルンゼに入っていく。ルンゼ内は次第に狭くなりゴルジュ状となっているため、上部の
様子がまったくわからない。雪崩が来てもまず判らない。
 ロープの間隔は雪崩に備えて少し長めの8mぐらいで結び合って同時登攀を行った。
 スピードを上げるために支点は取れない。いくら簡単なところでも振り向くといつのまにか高度が上がっていて支点をとりたくな
る。氷質もいいところも有れば、グサグサのところも有る。さらに傾斜は概して緩く、段になってもいるがそれでも60度から75度、部
分的には80度はある。
 絶対に落ちられない。落ちるわけが無い。自分の実力ならこんなところは駆け上がれる。自分に言い聞かせながらただマシーン
のようにバイルを振り、アイゼンを蹴りこみ登っていく。
 怖いというのではない。この緊張感が心地いい。 
 アルパインクライミング!
 氷の溝を乗っていくと大きなきのこ雪が頭上にかぶさっている。あれが落ちたらまず助からない。常に小さな氷片が落ちている。
大きいスノーシャワーがくれば、足をすくわれて数百メートル下まで止まらないだろう。雪崩をうかがいながらのクライミングが続く。
 しばらく登ると広い雪壁にでる。これを登り中央ルンゼ側に移って300m近く登れば終了だ。
 しかしここからが辛かった。雪は締まっておらず、ひざぐらいのラッセルが続く。大谷原から12時間以上登り続けているのでスピ
ードが上がらない。ラッセルを交代しながら登り続けるとあっけなく鹿島槍北峰の頂上に出た。9時45分。看板のすぐ横だ。
 嬉しさがこみ上げるが、気を抜いてはいけない。喜びは下で味わおう。
 下山は北峰と南峰のコルから北沢本谷を下降する。赤岩尾根経由より遥かに速い。しかし、雪崩の巣なので雪質、時間はよく
検討しなくてはいけない。
 本谷が緩くなり東尾根を回りこむ頃にはもう疲れもピークだ。というより、安全圏なのでこれまでの疲れが噴出してくる。
 延々と歩きつづけて大谷原についたのは14時。行動18時間。北壁ワンデイ・アセント(ディセント)の完成だ。
 次は中央ルンゼだ。あの岩壁に食い込む一本の白い溝は、アルパインクライミングの神髄らしい。
 
 今回ロープはトラバースを始めるところから常に繋いでいた。これには反対の意見もあるとおもう。どうせ同時登攀なら落ちても止
められない。あるいは自分のペースで登れないから疲れてしまってスピードも上がらず安全でない。こんなことが考えられる。
 しかし、雪崩のこともあるし、僕らは少しでも危険があればロープを出して登ることにしている。ロープを繋いで登ることを習慣付
けている。雪崩の危険のあるとき、視界の効かないとき、そして、滑落の危険のあるとき。僕らの選択肢は、アンザイレンしての同
時登攀か、スタカットだけだ。でなきゃ二人で登る意味無いだろう。

 こうしていれば防げた事故が今年は多かった...

 今回ヘッドライトはティカを使ってみた。電池込みの重量70gのライトだ。
 僕の使っている今までのライトであるペツルのものと比べて、照射距離が短いが、広い範囲がかなり明るくなる。先を見ながら進
むリッジ上では不利だが、壁の中で使用するには有効だとおもう。電池が長持ちして、さらに軽いのだから予備の電池の代わりに
持つのもいいかもしれない。その場に応じて使い分けてもいいと思う。
 軽さは魅力的で、ヘルメットにつける場合には絶対有利だ。
 総じて、照射距離の短いのは気になるが、この明るさ、軽さは使える。

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