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鋸岳縦走
2002年9月15日〜16日
久野他3名
甲斐駒ヶ岳の北にある鋸岳は、中央高速から見えるギザギザの稜線だ。あのすべてを縦走する訳ではないが、この縦走の核
心部は想像どおりこの部分である。
鋸岳の最高点、第一高点に登るだけなら、釜無川から直接上がる登山道があるがとっても長い。それに、鋸岳の名前はやっぱ
りこのギザギザからとられている訳で、縦走しなけりゃ意味がない。深田クラブ選定の200名山にこの鋸岳が入っていて、その紹
介の雑誌には釜無ルートが載っているが、深田久弥が生きていたらこう嘆くであろう。
「穏やかな山容の続く南アルプスにあっては異質な存在であるこの鋸岳も、その親分格である甲斐駒ヶ岳と並べると、全く違和感
を感じ得ない。むしろ、甲斐駒ヶ岳の大刀に対し、鋸岳の小刀ともいえるその姿は、二つ並べて見ることによって、堂々とした体躯
の武士を感じさせる。それも、江戸時代の弱々しい武士ではなく、戦国時代のこの地の英雄、武田信玄のように強い、『モノノフ』
を感じさせる。」
「鋸岳は甲斐駒ヶ岳があってこそ、この名前どおりの魅力が生まれる。逆をいえば、甲斐駒ヶ岳と何ら関係を無くした鋸岳は全く魅
力が無くなってしまうだろう。また、標高や人の作った三角点で、その山に登ったこととしてしまう、最近の登山の風潮は、私の意
図する所ではない。せめて鋸岳のみは縦走をしなくてはならない。」
「私には、甲斐駒ヶ岳から鋸岳の縦走をすることは夢のまた夢であるが、いつの日かこの縦走を成し遂げてみたいものだ。」
1日目。仙流荘から南アルプススーパー林道のバスに乗って、北沢峠に向かう。北沢峠手前で運転手さんが熊の足跡を見つ
け、バスの中が盛り上がるが、僕はといえば眠くて半分寝ていた。天気は曇りがちだが、北沢峠では晴れているそうである。
北沢峠からは双子山経由で甲斐駒ヶ岳を目指す。途中、雲を抜けたようで、青空が顔を出すが、これは誰のおかげだろう。僕だ
ろうか。
頂上付近では風が冷たく、さっきの青空もなくなっていた。ガスが濃く、霧雨のようで、体が濡れる。
頂上で休憩し、鋸岳への稜線を進む。ガスがかかっていると全く方向が解らなくなるので、地図とコンパスを出すなどして慎重に
進んだ方がよい。
いったん稜線を降りはじめれば、間違うことはないと思うが、不安ならコンパスをあわせておく方が無難だと思う。稜線上は、巨
岩が乱立していて踏み跡も交錯している。踏み跡を信じると思わぬ難所に出ることもあるので、無理そうなら、引き返し、より良い
ルートを見つけるぐらいの慎重さが必要だ。10時までに北沢峠を出発していれば、今日の六合石室までは難なく到着できる。焦
ることは何もない。
ルートは砂利が多くスリップしやすいが、慎重に進めば問題ない。それより問題なのは、岩であろう。これまで僕は甲斐駒ヶ岳
周辺の稜線上で岩の脆さことなど考えたこともなかったのだが、今回認識を改めさせられた。
巨岩を巻くように細いバンドが続くところが幾つもあるのだが、岩のフレーク(岩が葉状になっていて、しっかりと手でもつことがで
きる形状)が、突然欠けた。ちょうど狭い道で、それを支えに通過しているときに突然体が外に振られて滑落した。何が起こったか
すぐに理解できた。手には欠けた岩がまだ握られていた。たまたまハイマツ帯であったから、すぐさまハイマツにしがみついて事な
きを得たが、これが大きく切れ落ちていたらと思うとゾッとする。
僕らも仕事上、お客さんの使いそうなホールド(手がかり)は確かめるのだが、今回はホントに良かった。僕で良かった。絶対に
欠けそうもない形状をしていたから。
ちなみに、雪上でも、雪が無くても滑落したらまず転がらないこと。転がってしまったら、どんな名人でも滑落は止められない(と
思う)。どうしたら転がらないかって?そう、滑落したら嫌だと思うところ、危険なところは、後ろ向きで降りるとか、滑ったら必ず足
から落ちるような体制でいれば良いんでないかと思う。僕はそうしているし、そう話している。
よく、難しいところを降るときは後ろ向きになれということがあるが、それは半分しか正しくない(と思う)。後ろ向きになるのは、難
しいから後ろ向きになるよりも、仮に滑ってしまったら、とってもヤバイところでそうすべきだと思う。後ろ向きであれば、仮に滑って
もすぐ手で支えることができるし、掴まることができる。横向きに歩いたり、降りたりするのもそういうのが一番の目的だと思う。
話がどんどん逸れていきそうなので、話を戻しますが、質問があったらいつでもメール下さい。また、コースに参加すれば、いつ
でもこういう事は話しています。
で、滑落はなんて事もなかったが、手から血が出てしまった。ちょっとだけど。
今日の宿泊地(幕営地)、六合石室だが、注意していないと見つけられない。稜線上にはないため、気にかけていないと通り過
ぎてしまうだろう。実際、他のガイドパーティは泊まる予定であったにもかかわらず、見つけられず通過してしまったらしい。お粗末
な話だ。
小屋は稜線上の西側、鋸岳に向かって左側にある。
地面にそのまま壁を立てて、屋根を載せただけの粗末な小屋だが、中にテントを立ててしまえば、至極快適な空間が作れる。
2時30分頃小屋に到着。水は必要と思われる分は担いできたが、あるにこしたことはない。先着者が水場を発見し、汲んできて
いたので、僕らも教えてもらって汲みに行く。秋のこの時期に水が得られるなんてラッキーだ。半ばあきらめていた水だ。
水場はガイドブックにも書いてあるが、それよりも、小屋から少し先、鋸方面に向かうと、石碑の多くある砂地に出る。そこから若
干戻る方向に、下の方へトレースがあり、赤テープも付いている。これを降っていくと、水場がある。最後の方は踏み跡もかなり怪
しくなるので、帰りの地形を確認するために振り返りながら降りると良い。降りと登りでは全く景色が変わるので、これは覚えてお
いた方がよい。
夜食のメニューはおきまりの麻婆春雨。今日もスープ付!市販の麻婆春雨に春雨を増量して、高野豆腐、干し椎茸、わかめな
どの乾燥ものを足してサラダ風に作ります。いつも一緒。これに、アルファ米と、それで作ったちらし寿司。以上。
夜眠ろうとすると、尾白川本谷というルートを沢登りしてきた二組の団体が入ってきた。それも大勢で。沢登りをしてきたのだから
体はずぶ濡れ、しかもこの日は結構寒かった。だから、彼らが、食事の準備をして、眠りにつくまではうるさくても我慢しようとして
いた。が、あまりにもひどい。こちらが眠りについているというのが解っている(はず)なのに、なかなか静かにならない。酒を飲み
だして更にヒートアップしかけたところで、片方のパーティが眠る準備をし出した。これでもう片方のパーティも静かになるだろうか
ら、もう少し我慢してやるかと思っていたら、他のパーティが「しずかにしろ」と怒ってくれた。
テント場でうるさくされると、その人の親の顔が見たくなるぐらい怒れて注意するが、今回は寒そうなのでできなかった。気が弱
いことだ。
翌朝、4時起床、5時30分出発予定。で、だいたいその通りに出発するが、雨が降ってきた。とりあえず、どうするか迷いながら
も、この先の三ツ頭を越えて、中ノ川乗越までは進むこととする。それまでに天気が回復すれば、そのまま続行、回復しなけれ
ば、そこから第二高点往復で、熊穴沢を下降するということにする。
足下が滑りやすくなった樹林帯をどんどん進み、樹に掴まりながら急下降したところが中ノ川乗越だ。やはり天気は好転しそうも
ないので、残念だが第二高点を往復後下降することにする。撤退だ。
ここで、例の六合石室を通過してしまったガイドパーティと出会う。彼らも第二高点往復をしてきたようだ。
ここから第二高点往復は岩が濡れていると嫌らしいところがいくつかあるが、さしたる難所はない。が、上部では安全を考えてザ
イルで確保した。第二高点には大きな鉄剣が刺さっていて、抜こうとしたが無理だった。仮に抜けたら、罰が当たるのだろうか、王
様になれるのだろうか(・・・クサイ!)。
熊穴沢の下降はがらがらと岩の積み重なった斜面で、とっても歩きにくい。踏んだそばから崩れる。沢の左右に樹林帯があり、
それに入りたくなるのがこれはとっても危険だ。沢の左右は、壁が立ちはだかっていて落石がひどい。万が一落石でもあろうもの
なら、大変なことになりかねない。ここは我慢して沢のど真ん中を進むべきだ。1時間も下降すれば、真ん中に樹林帯が現れて、
自然とそれに導かれていく。それまでは頑張って下降しないといけない。
熊穴沢を下降しきると、戸台川にぶち当たり、それを渡ると一般ルートだ。が、このまま熊穴沢をそのまま下降すると、とっても下
降しにくいし、戸台川の縁は崩壊して崖になっている。だから、熊穴沢を下降し、戸台川が見えたら、右の方へ100〜200b位
移動し、降りやすい斜面を探すと良い。無理に降りようとすると崖になっていて危険だ。
戸台川を渡るのも秋なら問題ない。春先や雨上がりなどは、水量があるのでこの渡渉がポイントとなる。
今回は、鋸岳の核心部は行けなかった。そう、第二高点から第一高点までが核心だ。そして、案外知られていないが、危険な
のは、第一高点と角兵衛のコルとの稜線の下降ではないかと思っている。濡れたら、掴まるものは何もない滑りやすい草付の斜
面だ。最近、角兵衛沢からの往復や、釜無川からの往復が一般ルートとして紹介されているが、どちらもここを通過する。もし足を
滑らせたら、そのまま左側の200bは切れ落ちている壁を、何物にも当たらずに落ちていくだろう。ホントに。
他にルート上のポイントとしては、第二高点から第一高点への降り口が間違えやすいので注意が必要だ。また、鋸岳第二高点
から第一高点にかけての岩は、甲斐駒ヶ岳周辺の花崗岩と違い、とってももろい。なぜこんなに近くの山なのに岩質がこうも違う
かは、バスの運転手さんの説明に任せて、縦走をする人はよく知っておいてほしい。縦走中にも岩を登るところが少しだけある
が、技術的には全然難しくないが、とにかく岩がもろい。大丈夫そうでもあまり信用しない方がよいと思う。
この報告を読んだ人は鋸岳は危険でかなり大変そうに思うかもしれませんが、この山には全てにペンキ印のしてある遊歩道の
様な槍、穂高とは違った、自分でルートファイティングする楽しさがあります。(逆に自分の読図能力に?のある方は控えた方が良
いかも??)慎重に歩いて下さい。そして、自分で辿った稜線を下から見上げてください。ここまでかっこよく見える稜線は日本に
はそうそうないでしょう。甲斐駒ヶ岳と鋸岳が一緒になれば、見た目は槍の穂先に連なる北鎌尾根にも引けをとらぬ迫力です。
最後に。冬はもっと良いよ!ルートも、見た目も。
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